運動の苦手な子ども【発達障がい 学習塾】ふぉるすりーる活動ブログ 2020/1/13②
運動の苦手な子ども
「靴ひもがうまく結べない」
「つまずくものがないのに、よく転ぶ」など
これまでは、過保護な育て方や運動不足、練習不足が原因だと思われたり、理由がわからないまま対応に苦慮されたりしていましたが、実は、このような子どもたちは、発達障害のひとつである
「発達性協調運動障害(DCD =Developmental Coordination Disorder)」
である可能性が知られるようになりました。
乳幼児期から現れる兆候
発達性協調運動障害(DCD)の子どもは、「ミルクを飲むときにむせやすい」「寝返りがうまくできない」「ハイハイがぎこちない」など、乳児のうちからその兆候は現れてきます。
・言葉が不明瞭
・塗り絵で線に沿ってなどきれいに塗れない
・コップ、スプーン、はさみ、のりが上手に使えない
・着替えが遅い
・階段の上り下りが下手で、何となくぎこちない
・ウンチがうまく拭けない
・三輪車、遊具でうまく遊べない
幼児期における不器用さの問題
保育所や幼稚園に通うような幼児期には、「階段の昇り降りが苦手」「はさみがうまく使えない」「着替えが遅い、難しい」など、さまざまな形で症状が現れます。
DCDの頻度は6~10%と高く、小学校の30人学級ならクラスに2、3人はいる計算になります。注意欠如・多動性障害(AD/HD)の約30~50%、限局性学習障害(LD)の子どもの約50%に見られ、自閉症スペクトラム障害(ASD)と併存することも多くあります。そして、この障害は大人になっても、50~70%と高い頻度で残存するとされています。
これまでも発達障害のある子どもに不器用さが見られることは認識されていましたが、そのような症例が単独にも存在し、発達障害の子どもたちを理解し、支援していく上で重要であることが、近年専門家により指摘されています。
運動をコーディネートできない障害
発達性協調運動障害(DCD)の重要なキーワードである「協調」とは、どのような脳の機能なのでしょうか。これは英語では、Coordinationと言います。洋服を「コーディネートする」という外来語がありますが、そのコーディネート(coordinate)の名詞形です。
例えば、スーツもシャツも新調した。ネクタイもベルトも靴下も一流品を買った。ところが、試しに揃えて着てみると、色が合わない、柄がチグハグで着られない。つまり、コーディネートに問題がある状態です。
これと同様に、DCDとは個々の身体機能に問題がないにもかかわらず、脳が運動をコーディネートできない障害と考えられます。
定型発達の子どもならば誰でも難なくこなせるような、「床にボールを弾ませる」「片足でバランスを取る」といった簡単な運動においても、その不器用さは現れます。DCDの子どもは、親や教師が、ふざけているのではないかと思うほど理解できない動きをすると言います。
何気ない運動でも、それをスムーズに正確にこなすには、目で空間的な位置を確認し、自分の身体と対象との距離を測ったり、目と手足を連動して動かしたり、体のバランスを取ったり、力の入れ具合を調節したり、動くタイミングをはかったりといった、さまざまなレベルの情報を統合し、運動に結びつけなくてはなりません。DCDの子どもにはそれが難しいのです。
不器用さを受容し、本人の上達を信じること
発達性協調運動障害(DCD)の子どもたちの「不器用さ」は、生活の場面でも、学習の場面でも、本人の心に大きな負担となります。不器用さは、専門家ですら脳の機能障害と理解している人は少ないために周囲からの支援は受けにくく、逆に、保護者や教師から間違った対応がなされて、事態が悪化するケースがあります。
例えば、「縄跳びが飛べない」「縦笛が吹けない」「字をマス目に収められない」、そのような子どもに対して、教師も保護者も「練習が足りない」「怠けている」「だらしない」「何度も繰り返せば、必ずできるようになる」として、反復練習を強いる指導をしがちです。
本来は発達障害の一種であることを理解した上で、ていねいな説明と適切なサポートや合理的配慮を行うべきなのに、挫折感や屈辱感を与えるような訓練が繰り返され、結果として本人の自尊感情が大きく損なわれるという問題が発生します。最悪の場合、虐待、いじめ、体罰などのターゲットになり、感覚や運動レベルの障害にとどまらず、二次的な精神障害まで負うことになります。
では、このような子どもたちをどのように支援していけばいいのでしょうか。不器用さの改善はできるものでしょうか。
自閉症やADHDで運動が極端に苦手な子どもたちのスポーツ指導をしている筑波大学准教授の澤江幸則さんは、「どんなに運動が下手でも、体を動かすことが嫌いな子どもはいません。比較されることがなく、“ここでは下手でもいいのだ”とわかれば、子どもたちは安心して運動にチャレンジします。小さな目標であっても、それを達成した喜びは子どもを前向きな気持ちにさせます」と話します。
澤江さんの活動では、子どもたちは仲間と運動能力を比較されることはなく、「ボールで的を倒す」などの運動遊びの中で体を動かす楽しさを体験していきます。走ったり、飛んだり、ボールを投げたりするのは、誰かに勝つためではなく、自分のやりたいことを成し遂げるためです。
コンプレックスを与えずに運動に親しむ
発達性協調運動障害の子どもたちは、定型発達の子どものように自然に上達していくのは難しいので、大人が介入していく必要があります。
基本的には本人のやりたいこと、できるようになりたいことを尊重し、指導者は具体的なアドバイスや自然に動きが改善されるようなサポートによって、それを手助けします。
一人ひとりに寄り添う支援を
発達障害が、協調運動などの身体性と密接に関係していることを裏づけるかのように、近年、運動療法が「社会性の障害」「実行機能の障害」「学習能力」なども改善することが明らかになってきています。
運動と脳機能の発達は密接にかかわる
長年、発達障害の子どもたちの診療と支援活動を続けてきた小児科医の中井昭夫さん(現:武庫川女子大学 教育研究所・教授)は、当事者や家族の困りごとと、支援者の診断や支援の進め方とのギャップを感じてきました。社会性に問題のある困った子どもととらえ、社会に適合できるような訓練を積むだけではなく、発達障害の子どもの世界観を理解し、あらゆる子どもの発達の基本である「自ら動き、体験すること」を尊重することが大切だと言います。
発達障害のある子どもは、五感で世界を知覚する仕方や、手足を動かす出発点が定型発達の子どもとは違っています。その世界を理解した上で、本人が望むこと、興味のあることの手助けをしていくことが、発達を促す方法だと言います。
発達障害と一口に言っても、症状の現れ方は千差万別です。大切なのは、子どもを単にチェックリストに当てはめて、発達障害というレッテルを張るのではなく、「コミュニケーション」「協調運動」「学習の認知プロセス」などさまざまな側面からその子の生きづらさや困りごとを見極め、その子どもと家族に必要な柔軟な支援のプログラムを組むことではないでしょうか。
※参照:『発達障害の子どもを理解する』(小西行郎)、『チャイルドヘルス 特集子どもの不器用』(中井昭夫)、『チャイルド・サイエンス Vol.10』「発達障害の診察室で考えていること」(中井昭夫)
引用:WEBライター 木下真様の文を引用しています。